組織編制からスタート、会社を挙げてのデジタル強化とOMO推進
1981年のブランド創設以来、イギリスをはじめヨーロッパの洗練された暮らしやカルチャーを紹介してきたライフスタイルショップのパイオニア「アフタヌーンティー・リビング」。40周年の節目に、ECを強化し、全国120以上の店舗と繋ぐことで、より長く愛されるブランドを目指す、株式会社サザビーリーグ アイシーエルカンパニー 最所克博さん、岡本昌和さん、東麻子さんに、OMOプロジェクトの取り組みについてお聞きしました。
株式会社サザビーリーグ アイシーエルカンパニー
カンパニープレジデント 最所克博 氏 (写真右)
Eビジネス部 マネージャー 岡本昌和 氏(写真左)
OMO推進チーム リーダー 東麻子 氏(写真中央)
家中のライフスタイルブランドとしての原点回帰
➖➖ブランドのコンセプト、ターゲット、商品構成は?
最所:生活に心の贅沢と心地よい刺激をお届けすることをコンセプトに今から40年前、1981年にスタートしました。「spice of a day(スパイス・オブ・ア・デイ)」というテーマを掲げ、日常の生活にちょっとした工夫や旬の彩りを取り入れて、豊かな時間を送っていただきたいということを、私達のブランドは大切にしてきました。お客様の9割以上が女性ですので、そこをターゲットとしております。
商品構成は、大きく分けると、「キッチン・ダイニング」「ファッション・服飾雑貨」「ベビー・リビング・ヘルス&ビューティー・その他」、これがそれぞれ大まかに3分の1ずつとなってます。アフタヌーンティーにはリビング雑貨事業と、カフェ業態のティールーム事業があり、お客様からするとカフェのイメージもお持ちです。当初は、食器、家具など家中の商品を展開していて、この品揃えに加えて、外に出ていく商品、お洋服やバッグなどファッションアイテムを増やしたのですが、ブランド40周年を機に、もう一度、家中のライフスタイルの分野を強化しようと思っています。
店舗・EC横断型の組織を核にプロジェクトを進行
➖➖これまでの自社ECが抱えていた問題点とは?
最所:10年以上前に自社ECをスタートしましたが、端的に言うと、世の中のEC市場全体の売上げは右肩上がりなのに、当社はずっと横這い状態で伸び悩んでいました。また、ブランド40周年を控え、家中のライフスタイルブランドとしてのリブランディングのためにも、デジタルを強化する必要性も感じていました。店舗とECそれぞれの購買体験を掛け合わせることで、ブランドに対する愛着を高め、より強く接点を持てるのではないかと、リバティシップさんにご相談したのが、コロナ前の2019年末です。
➖➖OMOを進める上で、まず着手したことは?
最所:リバティシップさんから、部署間の壁をなくすよう進言され、新たにOMO推進チームを立ち上げました。私はカンパニープレジデントとしてブランド全体を監修する責任者であると同時に、Eビジネス部の部長、OMO責任者も兼務しています。デジタルの重要なポジションをトップ自らが兼務することは、会社としてデジタルに本腰を入れて取り組むという意思表示でもあります。また、我々は小売業ですので、大きくは商品本部と販売本部に分けられます。そのどちらにも属さない中立的な組織をトップ直轄に置き、各部署からスタッフを選出してもらうという形態にこだわりました。
➖➖プロジェクトメンバーとしての業務内容は?
東:OMO推進チームが新設され、私はその専任メンバー第1号です。もともとマーケティング部でプレスを担当して、ブランディングやマーケティングを行っていました。弊社の場合は、これまで店舗中心のマーケティングでしたが、リバティシップさんに入っていただいたことで、ECと店舗を融合した顧客体験設計の価値観を共有していただき、アフタヌーンティーではどういうことができるのかを日々考えています。
岡本:Eビジネス部では、週1回OMO定例ミーティングを欠かさず実施し、まずはメンバーに対してOMOへの意識改革を行っています。毎週何かしらアクションを起こし、ECだけではなく、店舗のことも考えて、結果に繋げることを目指し、OMOを進めていくにはどうしたらいいか、今まさに考えているところです。
➖➖新たな試みに対する、社内の意見や反応は?
最所:そういう組織ができると、自分たちも参画したい、遅れを取りたくないという意識が出てくるようです。結果、各部署が積極的に協力してくれるようになり、まさに狙い通りでした。
情緒性と機能性とのバランスでブランドの価値を高める
➖➖組織編制の次に行った取り組みは?
東:まずはお客様からの声を聞き、分析をしました。マーケティング部では店舗を利用されているお客様と商品開発のためにグループインタビューを行うこともありました。ですが、ECに関しては、どんなお客様が利用しているか、データ上では見られますが、実際にどういう生活をされているか深いところまではわかりません。地道なヒアリングから始め、お客様からあがってきた声を整理し、優先順位をつけて実施、その結果を検証する。そんなPDCAを回し、ひたすら繰り返すという筋トレです。コツコツと続けていくといつかは効果が出るのだと思います。しかも、私たちにとっては、初めてのことなので、それが効果なのかさえもよくわかりません。その都度、リバティシップさんに「これは良いことです」「これは褒められるべきことです」と教えていただくことがモチベーションにも繋がっていきました。
➖➖実際に行った具体的な施策とその効果は?
岡本:大きくは、全体的にデザインと構成のリニューアルを行いました。トップページはもちろん、ギフト需要に特化したページを新設し、商品の詳細ページも見やすく動線を整えました。2021年4月に、ある程度形になり、今まさに運用し始めたところです。特にギフトのページはかなり力を入れてます。リバティシップさんにSEO対策の基礎をしっかりやっていただいたことで見えてきた結果でもあります。
最所:一つは商品の開発ストーリーをバイヤーに語ってもらうコンテンツの制作。本社や店舗のスタッフは商品発表の場で聞く機会がありますが、お客様に対して、商品は自ら語ってはくれません。開発背景が見えるコラムを作ったことで、もの作りに対する姿勢もお客様にお伝えすることができました。それと意外にも店舗スタッフが喜んでくれています。接客ツールとしても活用でき、スタッフ自身が商品を知る機会にもなる。やはり内側の意識改革も大事ですから。加えて、誰か一人が登場すると、最初は半信半疑だったのが、自分の商品も訴求して欲しいと、次々に依頼が来るようになりました。
東:店舗スタッフをアンバサダーに起用し、EC上で接客をするというコンテンツも立ち上げました。今までは、商品の探しやすさなど機能性に重きを置いたカタログ的なサイトでしたが、コロナ禍で買い物の仕方が変化し、これからいろいろな競合も出てくる中で、足りていなかった読み物など内容の強化を図りました。それによってECに情緒性を付加できたことが良かったです。また、SNSも担当しているので、よりスタッフを巻き込んだインスタライブのようなコンテンツも展開していきたいと思っています。
最所:そして、今までやってこなかったWeb広告の運用を行いました。広めていくための対策を打たなければ売上げも伸びないということで、どの媒体にどれだけ広告費用を投下すべきかなど、豊富なご経験から最適な投資の仕方ついてもアドバイスをいただきました。
ブランドのさらなる発展に向けて、今後の課題と目標
➖➖取り組みの中でさらに見えてきた課題は?
最所:ECの売り上げを構成する要素が何か、「集客・接客・CRM(顧客管理)・商品」を柱に整理していただきました。お客様をどのように呼び込み、サイトを見やすく使いやすくすることで効果的に接客し購入していただく。その後は、リピーターになってもらうためのお客様との関係作りです。CRMは非常に深い話で、瞬発的にたくさん買っていただくよりも、LTV(ライフ・タイム・バリュー)つまり、生涯を通じてこのブランドを愛していただけるお客様をどうやって繋ぎ止めかつ増やしていくか、これが非常に大切です。そして、4番目に挙げましたが、そもそも商品自体に魅力があるか。この4つの軸についてわかりやすく説明してくださいました。自社だけで運営していると、どこに向かっているのか、それが正しい目的地なのか見えなくなることが多い。行っている施策が正しいのかどうか、リバティシップさんに冷静かつ客観的に分析して頂き、これまでの豊富な経験やノウハウによって的確に導いていただいております。
東:また、私たちを含め社内のデジタル人材の育成も目標として掲げています。店舗スタッフも店頭だけで活躍する時代ではなくなってきているので、もっと広い視野でお客様と繋がる接点を作ることがミッションでもあります。知れば知るほど、問題点が見えてくるので、ゴールがどんどん先の方に動いているような感じます。
岡本:やはりECでの売り上げや結果は、すごくわかりやすいので、そう考えると情緒性というブランディング部分と機能面の強化によって売上げを伸ばすことを両立するようなバランスを探ることが大事です。さらに、分析データを何かしらフィードバックして商品の企画・開発にも生かせるようにできればと考えています。また、品揃えの仕方もやっぱり他社とは違うアフタヌーンティーらしい切り口だったり、アフタヌーンティーがセレクトしたWeb限定商品をお客様に提供することも進めていきたいですね。
➖➖ブランドが目指すべきこれからの成長とは?
最所:目に見える数値としては、自社ECの売上げは、2020年4月からの1年間で前年比約140%伸び、売上げに対するEC化率は15%に伸長、十分大きな効果がありました。もちろん数値としてわかるものもあれば、目に見えない部分もあります。ECも店舗も両方ご利用いただいたお客様の購買金額や購買頻度が上がったり、長くお付き合いいただいたり、クチコミだったりというように、売上げだけでなく、どれぐらいファン化できたのかも同様に重要です。お客様の気持ちや行動の全部が見えるわけではないですが、さりとて全く見えないわけでもない。それらがバランスよくあることが、ブランドが長く発展していくための、デジタルの活用という終わりなき道のりだと思っています。
ようやく問題点がわかり、富士山の2合目に立ったぐらいの感覚です。まだまだやるべきことはたくさんありますし、常に日進月歩してますから、きっとゴールはありません。
Photos:Ayako Masunaga
Interview&Text:Masumi Sasaki